第185回はニュースを取り上げます
株式会社M&A総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 佐上峻作氏)は、上場企業M&A動向調査レポート(介護・福祉業版)』を発表した。 調査対象期間は2019年4月1日〜2022年3月31日。調査対象は、調査対象期間中に公表された、介護・福祉業を対象にした東証適時開示ベースのM&Aデータ。
介護・福祉業におけるM&A取引件数は2020年の新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響は見受けられず安定的な件数推移。 2019年4月1日〜2022年3月31日の3年間で公表されたM&A案件のうち、「介護・福祉業」関連企業を対象としたM&A取引件数を調査した結果、2020/3期は21件、2021/3期は24件、2022/3期は19件だった。本調査期間におけるM&A取引件数はコロナ発生前後で大きな変化はなく、安定的な件数推移となっていた。
売り手の属性を見てみると、売却対象事業と同種の介護・福祉業を営む企業は一定割合存在するものの、2021/3期~2022/3期にかけては、「個人」の売却案件が多い傾向。介護・福祉業は創業者個人が比較的小規模に介護事業所や福祉用具事業所を営んでいる場合も多く、コロナの影響を受けて財務体力が低下したことで大手企業へ売却し、スケールメリットを生かすことにより事業効率化を図るケースが多かったのではないかと推察されている。
2021/3期は、上場会社の非公開化案件が4件と最多件数。その内、介護・福祉業を代表する大手3社が投資ファンド傘下となる。 M&A取引件数における買い手の属性を見てみると、2021/3期は他の期に比べ、異業種企業による買収が多いことが分かる。この異業種による買収のうち、4件が上場会社の非公開化案件であり、介護・福祉業の非公開化案件において過去10年間で最多件数となった。
また、この内3件が投資ファンドによる買収案件となっており、業界において印象的な年になったとする。いずれの企業もコロナによる業績不振や先行きの不透明さ、事業の先行投資等を踏まえ、市場から一旦身を引き、短期的な利益追求ではなく長期的な視点を持って事業の立て直しを図るものと考えられると分析している。 本調査期間における非公開化案件は以下の通り。
■取引事例1:米ベインキャピタルとニチイ学館とのMBOによる非公開化
医療・介護関連事業を行う業界大手のニチイ学館は、マクロ環境に加え、介護施設の老朽化に伴う大型投資や人手不足による人件費高騰、更には経営体制の変革等、リスクを伴う事業構造改革が必要である中で、共に改革を推進するスポンサーとしてベインキャピタルに打診した。ベインキャピタルは、ニチイ学館の保有する医療関連・介護・保育・教育・ヘルスケア・セラピーという複数の事業ポートフォリオの中から成長ポテンシャルを有すると考えられる事業において成長投資を継続して強化し、経営リソースの最適配分を行うことで安定した収益基盤を確立させる方針。
■取引事例2:ユニゾン・キャピタルによるN・フィールドの完全子会社化
精神科領域に特化した訪問看護事業大手のN・フィールドは、収益性低下に課題を持つ中で、長期的な視点での課題解決に向けて、外部パートナーとの提携を金融機関から提案され、その中でユニゾン・キャピタル(ユニゾン)の紹介を受けた。ユニゾンは、株式会社地域ヘルスケア連携基盤(CHCP)を子会社として設立し、医療・看護・介護・薬局等の事業者を集約及び連携を推進し、規模の経済の追求とオペレーションの高度化を通じたヘルスケアプラットフォームの構築を目指し、近年では医療機関や調剤薬局等を買収していた。ユニゾンのヘルスケア領域における豊富な投資実績とノウハウ等を活用したいN・フェールド側とユニゾン側の急性期病院、後方病院、薬局への支援に加え、訪問看護という在宅医療を提供する企業をグループ化することで効率的な治療供給体制を構築するという構想が合致する形となった。
■取引事例3:MBKパートナーズによるツクイホールディングスの完全子会社化
介護事業大手であるツクイホールディングス(ツクイ)は、コロナによる感染拡大に伴い主力事業であるデイサービスの利用控え等による影響と先行きの不透明さ、介護報酬改定に業績が左右される不安定さを踏まえ、外部からの資本パートナーを検討していた。複数の入札候補者の中から、中長期経営計画の方向性が合致したMBKパートナーズが適すると判断。MBKパートナーズは、完全子会社後、取締役の過半数を派遣し、介護事業及び介護周辺事業を強化していく方針。