介護福祉事業所の人材定着には採用面接が重要

介護福祉経営において、人の問題は重要な経営課題の一つです。その中でも人材がなかなか定着しないという悩みを持つ経営者の方も多いと思います。今、介護福祉業界では、人材が定着する事業所としない事業所の二極化が進んでいます。人材が定着する事業所は安定した経営ができますが、定着しない事業所は不安定な経営を強いられます。人材が定着する事業所はいいサービスが提供でき、どんどん利用者が集まります。一方で人材が定着しない事業所は常に採用に追われ、サービスの品質も安定せず、結果として利用者が集まりにくい状態になります。人材を定着させるには、実は採用面接が重要です。例え資格者であったとしても、自社に合わないと判断したら、断る勇気を持てるかどうか、それが重要になります。本記事では、人材が定着する事業所としない事業所の違いを分析し、面接時にどうやって判断していくかの具体的な方法についてお伝えします。

人材が定着化する事業所としない事業所が二極化している

介護福祉業界は離職率が高いところと低いところが二極化が進む。

介護福祉業界は人が収益の源泉です。人がいて、質の高いサービスを提供できるからこそ、利用者が集まり、収益につながります。介護福祉事業の経営者にとって、人の問題は非常に重要な経営課題の一つです。頭を悩ませている経営者の方も多いと思います。特に、職員の定着問題は経営に重大な影響を与えます。やっとの思いで採用した職員がやめてしまうとさまざまなデメリットがあります。そして、今、人材が定着する事業所と定着しない事業所の二極化が進んでいます。
公益社団法人 介護労働安定センターによる「介護労働実態調査」によれば介護業界における1年間の離職率*は20.3%でした。その中で、離職率が10%を切っている事業所が20.6%、一方で離職率が30%以上の事業所も25.4%という結果でした。離職率10%を切っている事業所もあれば、離職率が30%以上の事業所もあるのです。

人材が定着しないとさまざまなデメリットがある。

人材がが離職することはデメリットばかりです。例えば、以下の点がデメリットとしてあげられます。

採用コストがかかる。
職員が離職してしまうと、その抜けた穴を埋めるために新規で採用をしなければなりません。採用のためには広告を出したりなどのコストがかかります。離職が増えれば増えるほど、その補充のためにコストがかかるということになります。

育成・教育コストがかかる。
どれだけベテランの方でも、その事業所の方針ややり方に慣れるのに3ヶ月はかかると思います。スキルが足りてない方を採用した場合にはもっとかかるでしょう。育成には時間というコストがかかります。3ヶ月〜1年かけて育成した人材がやめてしまうと育成にかけた時間がムダになってしまいます。

提供サービスの品質が安定しない。
選ばれる事業所になるためには、安定して質の高いサービスを提供することが重要ですが、人がどんどん入れ替わるということは、提供するサービスの質が安定しないということになります。利用者満足が下がってしまうと、売上に大きな影響を与えることになってしまいます。

人材定着しない事業所は構造的に人材不足の状態に陥りやすい。

そして、1番の問題は人材定着しない事業所は構造的に人材不足の状態に陥りやすいのです。介護労働実態調査のデータを再び読みとしてみましょう。調査の中で、「運営上の問題点」を聞いています。その中で人材定着で困っている事業所と困っていない事業所での結果に違いがあります。

運営上の問題点人材定着に困っている事業所人材定着に困っていない事業所
良質な人材確保54.8%28.1%
介護従事者の介護業務に望む意欲や姿勢に問題がある12.9%5.7%
介護従事者の介護業務に関する知識や技術が不足しており、教育が必要20.5%12.8%
介護従事者同士のコミュニケーションが不足している8.7%4.9%
管理者と職員間のコミュニケーションが不足している9.8%4.7%

これらの調査結果により、人材定着で困っている事業所は構造的な人材離職の問題が潜んでいると考えられます。

人が離職する→埋めるために妥協して採用→意欲・コミュニケーション能力・技術などが不足している人材が入職→管理者や他の職員とのコミュニケーションがうまくいかない→職場に馴染めない→育成や教育のための時間がかかる→力を発揮できない→離職

まさに人材離職の負のスパイラルです。構造的な問題なので、その場しのぎの対処療法では対応が難しくなります。介護福祉事業を運営するにはどうしても資格者が必要なので妥協してしまうこともあります。でも、勇気を持って我慢できないと、離職の負のスパイラルからは抜け出せないのです。

経営者自身が大切にしている価値観を知る方法

自社の価値観や考え方に合った人材を採用するのが人材定着の第一歩。

人材定着には色々なアプローチが考えられますが、本記事では、いかに自社にマッチした人材と採るかということにフォーカスしたいと思います。そもそも、自社の価値観や考え方に合わない人材を採用してしまうと、どうしても折り合わない部分が出てきてしまい、結果的に定着に繋がりません。運営を考えると多少妥協してでも採用したくなることもあると思いますが、不採用にする経営者の勇気が必要です。

自分の価値観を知るための5つの質問。

自社に合った人材を採用するには、まずは自社の大事にしている価値観や考え方を明確にする必要があります。以下の5つ質問を自分に問いかけてみて、具体的に書き出してみてください。

  1. あなたはなぜ今の会社を作りましたか?
  2. あなたが一番大切にしている言葉はなんですか?
  3. 仕事で満足感を感じるときはどんな時ですか?
  4. 仕事で不満を感じるときはどんなときですか?
  5. 自分の子どもにはどんな職業について欲しいですか?

具体的に書き出してみると自分の価値観が明確になってくると思います。言葉にすることで自分でも思ってみなかったが意外に大事にしている考えなどが見つかり、自己理解が深まるでしょう。もし、どうしても書けない場合は、家族や友人に自分はどんな人間なのかを聞いてみてください。自分では認識していなかった特徴が見えてくることもあります。経営者自身が大事にしている価値観をベースに、採用基準を作るとより自社に合った人材を採用できるようになります。

面接で見極めるべき最も重要なこと

自分の価値観とマッチした人材を面接で見極める。

自分の価値観が明確にできたら、今度はその価値観に合う人をいかに採用していくか、ということになります。そのためには面接でしっかりと人物像を見極めていく必要があります。
面接という短い時間で人を見極めるのは非常に難しいものですが、経験を積めばできるようになっていきます。コツとしては、面接時に何かモヤっと感じたら、自分はなぜモヤっとしたのか言葉にしてみることです。言葉にならない感覚的なものが実は自分にとって非常に重要な価値観を反映していることがあります。それを言葉にすることで、より判断がクリアになっていきます。

面接を通じて確認すべき最も大切なこと。

面接の時には、大きく2つの点を意識しながら確認しましょう。まず一つ目はスキル面です。自社が求めるスキル要件を満たしているのかどうか、しっかりと確認します。もう一つは、心の在り方です。自分で明確にした価値観に対して、どれくらいマッチしそうかを見極めます。これが面接で確認すべき最も大切なことです。先述の5つの質問をしてみてもいいかもしれません。求職者の回答が自分の感覚にしっくりくるようであれば、マッチしていると言えます。価値観は、良い悪いというものではなく、合う合わないという基準での判断になります。そして、その人が持っている価値観はなかなか変わりません。スキルは業務を通じて身に付けることができますが、価値観を変えていくのはかなり時間がかかりますし、大きなストレスがかかります。採用した後に自社の価値観を理解してもらえば良いという考えだとなかなかうまくいきません。そもそも価値観が合っている人を採用するのが、最終的には人材の定着へ繋がっていくのです。

中長期の視点で不採用の判断を。

介護福祉事業は資格者が必要なビジネスです。資格者がやめてしまうと補充のために自社に合わないと分かっていながらも採用するという判断をしてしまうこともあると思います。しかし、それは人材離職負のスパイラルの第一歩だということを強く自覚いただきたいです。合わない人材は採用しないのだという強い意思を持って、合わない人材は不採用するという判断をしてください。それは中長期で見たときに自社にプラスになる判断になります。